そこで、アーチング栽培をベースとして、主要品種に適した整枝せん定方法を検討するとともに、炭酸ガス施用やLED補光技術の増収効果を明らかにしました。
改良切り上げ方式で採花本数が増加
株元から発生する勢いのある採花用の枝(ベーサルシュート)と同化養分確保のための枝とを分け、養分確保のための枝を折り曲げる栽培法を、その形状がアーチ形になるところから、アーチング方式と呼んでいます。
従来のアーチング方式では、ベーサルシュートを株元から採花しますが、株元を残して採花し、その後5cmずつ切り上げて採花を行う「改良切り上げ方式」(図1)による効果を検討しました。その結果、ベーサルシュートの株元を5cm(切り上げ①)または15cm(切り上げ②)残した区では、「アマダ+」「サムライ08」ともに採花本数が多くなりました(表1)。
品種 | 試験区 | 採花本数1) (本/株) |
増収率2) (%) |
切り花長 (cm) |
切り花重 (g) |
茎径 (mm) |
---|---|---|---|---|---|---|
アマダ+ | 慣行 | 8.3 | – | 78.7 | 55.2 | 7.9 |
切り上げ① | 12.3 | 148.2 | 70.5 | 49.0 | 6.5 | |
切り上げ② | 16.2 | 195.2 | 66.9 | 44.7 | 6.2 | |
サムライ08 | 慣行 | 6.6 | – | 85.6 | 68.9 | 7.5 |
切り上げ① | 9.5 | 143.9 | 82.2 | 59.9 | 6.6 | |
切り上げ② | 12.1 | 183.3 | 74.9 | 52.7 | 6.3 |
注)プランターに培養土を入れた少量土壌培地耕、アーチング仕立て
慣行は株元採花、切り上げ①は株元から5cm、切り上げ②は株元から15cm残して採花し、
以後は5段目まで5cmずつ切り上げ採花を行った。5段目以降は、1段ずつ切り下げた。
切り上げ区では、ベーサルシュートを最大3本残して切り上げ採花を行った。
切り上げは6月から開始した
1)採花は平成29年10月2日から平成30年5月1日(2年生株)
2)慣行に対する採花本数の増収率
特に増収効果が高かった15cm区では、慣行区と比較し「アマダ+」で95.2%、「サムライ08」で83.3%増収したことから、ベーサルシュートを株元から15cm残す方式が適すると考えられました。一方、切り上げ方式により切り花長が短く、茎が細くなるなどの品質低下が見られました。
適切な切り上げ開始時期で切り花割合を改善
6月に切り上げを開始した場合、茎径がやや細めの「アバランチェ+」および「ヴァニティールージュ+」では、他品種と比較して切り上げ区の70cm以上の切り花が減少する傾向が顕著となりました。また、切り上げ開始後4段目や5段目になるとより茎が細くなり、折れてしまう現象が目立ちました。
しかし、切り上げ開始時期を11月にすることで、「ヴァニティールージュ+」では切り上げ区の70cm以上の切り花割合や茎の細さが改善されました(図2)。
採花は平成30年10月~令和2年5月調査
(6月切り上げ区:平成30年10月~令和元年5月調査、11月切り上げ区:令和元年
10月~令和2年5月調査、慣行区:2か年平均、いずれの年も2年生株を使用)
天井設置型LED補光で採花本数が増加
バラの切り花生産では、冬季は低日照等の影響で生産量が減少するため、対策として補光技術が有効であることがわかっています。そこで、天井設置型LEDによる補光の効果を調査しました。夜中から日の入り一時間前まで、18時間補光を行った結果、無処理区と比較し、採花本数は「アバランチェ+」で35.5%、「アマダ+」で53.0%、「サムライ08」で34.8%増加し、切り花重は大きくなりました(表2)。
また、日射量がおおよそ1万5000ルクス以下の低日射時のみ補光を行うことで、補光時間は18時間連続して補光を行った場合よりも約30%削減されました。
品種 | 補光1) | 採花本数2) (本/株) |
増収率3) (%) |
切り花長 (cm) |
切り花重 (g) |
茎径 (mm) |
---|---|---|---|---|---|---|
アバランチェ+ | 無 | 11.0 | – | 64.9 | 41.1 | 5.9 |
有 | 14.9 | 35.5 | 69.1 | 54.8 | 6.5 | |
アマダ+ | 無 | 8.3 | – | 78.7 | 55.2 | 7.9 |
有 | 12.7 | 53.0 | 78.4 | 67.6 | 8.0 | |
サムライ08 | 無 | 6.6 | – | 85.6 | 68.9 | 7.5 |
有 | 8.9 | 34.8 | 86.0 | 79.6 | 7.6 |
注)プランターに培養土を入れた少量土壌培地耕、アーチング仕立て
天井設置型LED(フィリップス社製 GreenPower LED toplighting DR/W MB、
光量子束:520μmol/s、消費電力:200W、床面からの距離:3.1m)を使用
1)夜中から日の入りの1時間前まで18時間、平成29年10月2日から平成30年5月1日まで照射した
2)採花は平成29年10月2日から平成30年5月1日(2年生株)
3)無補光に対する採花本数の増収率
技術導入の課題
現状では、炭酸ガス施用やLED補光には費用(機器代、ガス・電気料金等)がかかり、導入には課題が残されています。しかし、消費電力が削減された天井設置型LEDが近年開発されるなど、ランニングコストが減少することで経営的メリットが増える可能性があります。